治療の場(相談・サポート) 臨床研究

東洋医学研究室

鍼灸の効果と安全性

 鍼灸は長い年月を生き延びた先人の智慧でありますが、これを医術として用いる以上は現代医学による検証が必要となります。鍼灸の西洋医学的解釈は、鍼が皮膚(経穴)のポリモーダル受容器などを刺激して、求心性線維(C線維を含め)を介して刺激が中枢神経系へ伝わり鎮痛効果や抗うつ効果などを示すと推測されています(ボトムアップ・ニューロモデュレーション仮説)。脳内では視床下部や脳幹、大脳辺縁系を中心として、モノアミン、神経ペプチド(サブスタンスPなど)、オピオイド(βエンドルフィン、エンケファリンやダイノルフィン)の放出を誘導すると考えられており(文献1,2)、鍼灸の抗うつ効果の仮説モデルの1つになっています。その他、自律神経系、内分泌系(特に糖質コルチコイド)、免疫系への修飾効果も報告されています。当センターでは、うつ病患者さんの協力を得て、鍼灸によって迷走機能が改善することをシャム対照試験で示しています(文献3)。また、ストレス応答や免疫系への影響についても現在研究中です。西洋医学において鍼灸を臨床応用する上で、今後もこのような知見の集積が必要とされています。
 これまでのレビュー論文の中では、鍼灸の抗うつ効果に関して有効性、安全性、忍容性の観点からこれを支持する文献(文献4,5)と懐疑的な文献(文献6,7)が報告されてきました。2010年にはより大規模なメタ分析(文献8)がなされ、単極性うつ病患者(n=1998)と脳血管性うつ病患者(n=1680)を解析し、両群における鍼灸の安全性と抗うつ効果を示唆するものでありました。しかし、同じ年に報告されたコクランのシステマティックレビュー論文(n=2812)ではエビデンスレベルは十分ではないとする報告がなされています(文献9)。恐らく、これ自体は鍼灸の抗うつ効果を否定するものではなく、過去の鍼灸臨床研究の質が十分でなかった事実とシャム対照の困難さを示しているとも考えられます。
 最新のメタ分析論文(文献10)では、a) SSRIのみによる治療群とb) SSRI+鍼灸による治療群とを比較したRCTについて複数の国際的基準によって13試験を厳選し、計1046名のうつ病患者について検討しています。結果は、6週間においていずれもb)群のほうがa)群よりもハミルトンうつ病評価尺度 17項目(HAMD-17)の平均スコアが低いというものでした。また、治療反応率においても、2群間の差が有意に認められました(リスク比:1.23、95% CI:1.10 - 1.39、p<0.001)。安全性・忍容性の観点では、鍼灸による有害事象の報告はほとんどなく、むしろb)群のほうがSSRIによると思われる副作用の報告が少ないとするRCTも含まれていました。これらのことは、SSRIによる治療に鍼灸を追加することで、抗うつ効果を増強しその効果発現が早くなる可能性と、抗うつ薬の忍容性を高める可能性を示唆しています。
 鍼灸は侵襲性が低く安全な治療法でありますが、鍼灸と関連して起こりうる合併症としては、外傷性気胸、末梢神経障害、感染、鍼の皮膚埋没、刺鍼部の出血、灸による熱傷などを挙げることができます。これらの合併症にたいする予防対策は、WHOの安全性に関するガイドライン(1999年)および、国内の鍼灸安全性委員会によるガイドライン(2007年)およびマニュアル(2010年)に準拠して行われます。使用される鍼は、JIS適合の滅菌済み単回使用毫鍼であるため感染の可能性は最小限となっています。

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