治療の場(相談・サポート) 臨床研究

臨床研究室

「臨床研究室」の概要

 臨床研究室は近い将来における精神科医療の治療オプションを増やすための「治療研究」と客観的な診断方法を確立するための臨床研究を2本の柱としています。精神科病院の中にある研究室であるため、それだけ医療現場に近い視点から、患者の皆さんに還元できる臨床研究を推進できると考えています。県民の皆さんに先進的医療を提供し、また精神科医療の発展を願う若手医師にとっても魅力ある精神医療センターを目指しています。さらに研究成果を臨床現場に還元するために、成果を厚生労働省へ報告し、先進医療や保険収載を目指した努力も行っています。全ての研究は当精神医療センターの倫理審査委員会において、安全性のみならず生命倫理と研究倫理を十分に審議した上で実施されています。

各研究室の活動概要

ニューロモデュレーション研究室

 精神医学であつかう病気の多くは、ニューロン(神経細胞)そのものに異常はなくても、多くのニューロンが連携する「システム」において、その機能に異常が想定されることが少なくありません。そこで脳内のシステムにアプローチする方法として、ニューロモデュレーション(neuromodulation)という概念が精神科医療において注目されています。これは、外部からの刺激(物理的・化学的刺激など)または内的変化(種々の訓練)によって特定の神経システム(神経回路)を調整するものです。それではニューロモデュレーションはどのようにして神経システムを調整するのでしょうか。
 私達の脳は経験や学習によって自らを柔軟に再構成しながら1つのシステムとして成り立っています。その柔軟性を「神経可塑性(しんけい かそせい)」や「長期増強(抑圧)」と呼んでいます。ニューロモデュレーションは、この神経可塑性を活用しながら外的または内的に脳内のシステムを書き換える方法と言えるかもしれません。その一例として、反復性経頭蓋磁気刺激法(はんぷくせい けいずがい じきしげきほう、以下rTMS)が挙げられます。rTMSは磁気エネルギーを用いて特定のニューロン群を発火させる安全な脳刺激法です。rTMSを用いて特定のニューロン群を反復的に刺激すると、その神経システムに神経可塑性が誘導されると考えられています。
 健康な脳には適度な柔軟性が必要ですが、病気によってある神経システムが影響されて、柔軟性が低下したり、過剰に変化したりする場合には環境に適応できなくなる危険性が高まると考えられます。私達の脳または神経システムが病的な状態になってしまったとき、ニューロモデュレーションによって神経システムを健康な状態に近づけることができれば治療法として役立つかもしれません。たとえば、rTMSは薬の効果が得られにくいうつ病の患者さんに対する治療として研究されてきました。rTMSを用いて前頭葉とよばれる脳の前方部分を刺激すると、うつ症状を緩和する効果があることが報告されました。アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの国では既にうつ病治療として承認を受けておりますが、日本では未承認ですので安全性と有効性を示す臨床研究(治験)が必要とされています。
 本研究室ではニューロモデュレーションの精神科臨床応用にむけた様々な研究に取り組んでいます。

東洋医学研究室

 鍼灸や漢方薬は精神疾患における代替医療(alternative medicine)として注目されています。世界保健機関(WHO)もうつ病や神経症に鍼灸が有効である可能性を支持しています。抗うつ薬の目覚ましい普及にも関わらずアメリカや中国などにおいては、多くの人が「うつ」を主訴として鍼灸院を訪れています。中医学では「心身一如」というように、心と身体は一体不可分のものとして捉えられています。身体を病めば即ち心を病むことであり、心を病めば即ち身体を病むということであります。東洋医学では、身体状態を改善することが精神の健康にも役立つという考えが根本にあると言えます。
 平成20年度に当精神医療センター芹香病院に「ストレスケア病棟」を新設するにあたり、そのチーム医療の一環として鍼灸を取り入れることとなりました。東西両医学の立場からどのようにすれば「共通言語」が確立し、お互いが治療を補完してより良い治療ができるかについて検討を重ねてきました。まずは臨床経験上精神症状との関連が強いとされる東洋医学的な身体所見(経穴の反応)のスコア化を試みることを出発点とし、K式鍼灸スコア(KSAS)を作成しました。さらに鍼灸のプラセボ効果を正確に評価するためシャム鍼と呼ばれる特殊な鍼を用いた検討も行っています。
 本研究室では精神科医療における東西両医学の適切な融合を目指して研究を進めています。

依存症研究室

 平成26年12月1日、神奈川県立せりがや病院と芹香病院との統合を契機に、県立精神医療センターに新設された研究室です。せりがや病院は、全国でもめずらしいアルコール・薬物依存症を専門とする公立病院として51年の歴史があり、当初より外来・病棟ともにチーム医療にもとづく心理社会的治療が盛んでした。平成18年には、外来で覚せい剤依存症の患者さんを対象としたグループ療法「せりがや覚せい剤再発防止プログラム(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program: SMARPP)」を立ち上げ、その後は覚せい剤以外の薬物依存症の患者さんにも対象を広げて、着実に治療実績を重ねています。
 依存症研究室は、せりがや病院が半世紀にわたって築き上げてきた臨床経験と研究成果をもとに、依存症の心理社会的な病態解明と、より良い治療法の開発をめざします。当研究室の主な研究テーマは以下のとおりです。

  1. 疫学調査
     同じセンター内の依存症専門外来・依存症病棟と緊密に連携し、患者さんにご協力いただいたアンケート・面接調査や実際の診療記録などのデータ収集や分析を行います。当センターで治療を受けられた依存症患者さんの社会的背景や精神医学的病態、治療予後を浮き彫りにし、依存症という病気の実態把握を目指します。
  2. 治療研究
     より効果的な治療プログラムを開発し、当センターの依存症専門外来・依存症病棟の全面的な協力のもと、導入・試行します。プログラムを実施する際には必ずアンケート調査など効果測定も並行して行い、絶えず改良を加え、調査結果を次世代のプログラム開発に活用することを目指します。なぜなら依存症は時代と共に乱用される物質が移り変わり、また乱用する患者さんの年齢層や社会階層も変化していくからです。
     平成26年度からは、急増する危険ドラッグ依存症に対応するため、新たな入院治療プログラム(Serigaya Collaboration for Open heart Program: SCOP)を開発、試行しています。これは臨床心理士、作業療法士、看護師の3職種共同による統合的グループ療法で、感情・身体・コミュニケーションの3領域における患者さんの「気づき」を促すことで、断酒断薬への動機付けを高めることを目指すものです。依存症研究室では、その効果測定や治療予後の調査を行っていきます。
  3. 地域連携
     【司法機関との連携】違法薬物の使用で実刑判決を受けた受刑者が、満期になる前に出所し、保護観察を受けながら社会内で過ごしてもらうことで、円滑な社会復帰と再犯防止を目指す「刑の一部執行猶予制度」の施行を目前にして、せりがや病院では横浜保護観察所、横浜刑務所と連携してきました。定期的に保護観察所での薬物再犯防止プログラムに助言者として参加したり、横浜刑務所に出向いて受刑者の面接調査を行い、出所後の処遇について医療の側面から保護観察官に助言を行うといった活動を、研究室として引き続き継続していきます。そしてその成果については、適宜学会等で報告していきます。
     【教育機関との連携】学校からの要請を受け、従来からせりがや病院のスタッフが担ってきた薬物乱用防止教室の活動を研究室としても支援し、より効果的な防止教育のあり方に関する調査研究を目指します。
     【行政機関・回復施設等との連携】せりがや病院の職員が従来から引き受けてきた各自治体や回復施設等主催のセミナーや研修会、講演会を、研究室として引き継ぎ、アルコール・薬物依存症に関する正確かつ最新の医療情報の発信・普及に努めます。

PAGE TOP