治療の場(入院・外来治療) 専門治療

rTMS療法

rTMS療法(ストレスケア医療)

概要

 rTMSはrepetitive Transcranial Magnetic Stimulationの略で、日本語にすると反復経頭蓋磁気刺激(はんぷくけいずがいじきしげき)と言います。rTMSを用いると、磁気エネルギーを使って脳内の神経細胞を人工的に働かせることができます。TMSでは、専用のコイルを頭にあてて、そのコイルに瞬間的に高電流を流すと、磁場が生まれます(ファラデーの電磁誘導)。この磁気エネルギーが脳内の局所に(渦)電流を誘導し、特定の神経細胞群が電気的に刺激されて活動します。つまりTMS装置からの電気エネルギーがTMSコイルで磁気エネルギーに変換され、さらに脳内で電気エネルギーに再変換されて神経細胞に伝わるのです(図1)。頭蓋骨の外から脳を刺激する場合、磁気刺激は電気刺激よりもエネルギーが格段に伝わりやすいため、弱い刺激強度で効率よく局所を刺激することが可能となります。

rTMS 図1
図1

 TMSを反復的(repetitive)に行うと、大脳皮質の興奮性が変化して、刺激が終わった後も1時間程度刺激効果が続くことが分かっています。このことを神経可塑性(しんけいかそせい)と言い、「脳システムの柔軟性」を支える仕組みと考えることが出来ます。TMSを数百回から三千回程度繰り返すと、この神経可塑性を物理的に引き起こすことが出来ると考えられています。うつ病のrTMS治療では、3,000回刺激しますが、40分近くの時間がかかります。さらにこうした反復刺激を週に5日程度繰り返して、4週間から6週間ほどすると刺激の効果は脳内に定着し、治療効果(抗うつ効果)が得られると推測されています。つまり、rTMSは神経可塑性という我々に備わっている生物学的特性を活かした治療法ということができるのです。しかしrTMSの脳内メカニズム(図2)は未だに不明なところが多く残されており、今後も研究を継続する必要性があります。

rTMS 図2
図2

効果と安全性

 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法は、パルス磁場による誘導電流(渦電流)で特定部位の神経細胞を繰り返し刺激して、うつ病によるうつ症状を改善させる治療法です。抗うつ薬による治療を継続しながら、rTMS療法を追加することが可能です。保険診療では、rTMS療法に関する講習を受けた日本精神神経学会認定の専門医の指示のもと、1日40分、週5日、3週から6週間にわたるrTMS実施(治療クール)が認められています。
 rTMS療法を受けることで、すべてのうつ病が改善するわけではありませんし、効き方には個人差があります。世界で報告された臨床試験の結果をまとめて整理すると、以下のことが言えます。
 rTMS療法の抗うつ効果の程度は、おおむね抗うつ薬による治療効果と同等と考えられますが、電気けいれん療法による抗うつ効果には及びません。うつ病患者さんの約3割は抗うつ薬治療に反応しないと言われており(文献1)、そのうちの3~4割がrTMS療法に反応しています(文献2)。つまり、抗うつ薬が効かない患者さんの6~7割はrTMS療法にも反応していないことはご留意下さい。rTMS療法によって、病前に近い寛解レベルまで回復する割合は2~3割と言われています。再発率に関するデータは十分ありませんが、rTMS療法が有効であった患者さんの6~12ヶ月における再発率は1~3割と推定されています(文献2)。
 以上のように、抗うつ薬によって十分な効果が得られない患者さんの3~4割が安全性の高いrTMS療法によって抗うつ薬と同等の治療効果を示すことに一定の意義はあります。しかし、誰もが恩恵を受けるような万能な治療ではないことを事前に知った上で同意して頂く必要性があります。rTMS療法に反応しない場合には、次の治療オプションについて担当医師と話し合うこととなります。

rTMS療法の副作用に関して、以下に列挙します。

  1.  頻度の高い副作用:頭皮痛・刺激痛(30%前後)、顔面の不快感(30%前後)、頸部痛・肩こり(10%前後)、頭痛(10%未満)。ほとんどが刺激中に限定した副作用で、刺激強度を下げたり、慣れの効果によって、軽減されます。刺激が終わってからも違和感が残存したり、頭痛を惹起することがあります。
  2.  重篤な副作用:けいれん発作(0.1%未満)、失神(頻度不明)。(文献3)頻度は高くありませんが、最も重症な副作用としてけいれん発作が挙げられます。けいれん発作そのものは自然に終息しますが、けいれん発作に起因する外傷や嘔吐物誤嚥などの危険性が想定されます。
     これまでのrTMSに起因する全てのけいれん誘発事例の報告の中で、けいれんを繰り返す症例や、てんかんを新たに発症した症例は一例も報告されていません。また、抗うつ薬によるけいれん誘発の危険率(0.1~0.6%)と比較してもrTMS療法が特別にけいれん誘発のリスクが高い訳ではございません。
  3.  その他の副作用(頻度小):聴力低下、耳鳴りの増悪、めまいの増悪、急性の精神症状変化(躁転など)、認知機能変化、局所熱傷など。聴力を保護するために刺激中は耳栓を着用して頂きます。治療を要する躁転のリスクは1%弱と報告されています。

 以上より、rTMS療法の安全性や忍容性は、電気けいれん療法や抗うつ薬治療に比べても優れていると言えます。ただし、外来治療としてrTMS療法を受ける場合には4~6週間にわたって週5日程度通院しなければならず、頻繁な通院にともなう負担が生じることを事前にご検討下さい。

参考文献

  1. Rush AJ, Trivedi MH, Wisniewski SR, Nierenberg AA, Stewart JW, Warden D, et al. Acute and longer-term outcomes in depressed outpatients requiring one or several treatment steps: a STAR*D report. Am J Psychiatry. 2006;163(11):1905-17.
  2. Perera T, George MS, Grammer G, Janicak PG, Pascual-Leone A, Wirecki TS. The Clinical TMS Society Consensus Review and Treatment Recommendations for TMS Therapy for Major Depressive Disorder. Brain Stimul. 2016;9(3):336-46.
  3. George MS, Taylor JJ, Short EB. The expanding evidence base for rTMS treatment of depression. Curr Opin Psychiatry. 2013;26(1):13-8.

rTMS 図3
図3

対象者

 以下に挙げる項目に合致する18歳以上の方がrTMS療法の対象となります。精神科専門医(日本精神神経学会認定)による判断が必要となります。

  • うつ病(大うつ病性障害)の診断を受けていること(双極性障害は適応外となります)
  • 抗うつ薬による適切な薬物療法で十分な改善が得られていないこと
  • 中等症以上の抑うつ症状を示していること

 上記の項目を満たしていても、日本精神神経学会が定めた適正使用指針(rTMS療法のルール)に基づいて、担当医師が適応外と判断した場合は、rTMS療法をお断わりすることや、途中で終了することがあります。
 適性使用指針は一般に公開されていますので、以下のサイトよりご参照下さい。専門用語が多くて分かりにくい箇所があれば担当精神科医師にご質問下さい。

 絶対禁忌と相対禁忌についても事前に確認させて頂く必要性があります。

  1. 絶対禁忌(原則として、rTMS療法が実施できません)
    刺激部位に近接する金属(人工内耳、磁性体クリップ、深部脳刺激・迷走神経刺激などの刺激装置)、心臓ペースメーカーを有する患者。
  2. 相対禁忌(一般病院・総合病院では実施できる場合があります)
    刺激部位に近接しない金属(体内埋設型の投薬ポンプなど)、頭蓋内のチタン製品、あるいは磁力装着する義歯・インプラントを有する患者。てんかん・けいれん発作の既往、けいれん発作のリスクのある頭蓋内病変、けいれん発作の閾値を低下させる薬物(三環系抗うつ薬、マプロチリン、テオフィリン、メチルフェニデート、ケタミン、クロザピン、ゾテピンなど)の服用、アルコール・カフェイン・覚せい剤の乱用・離脱時、妊娠中、重篤な身体疾患を合併する場合など。

 当センターは一般病院(総合病院)ではないため、相対禁忌に該当する患者さんのrTMS療法を実施することは出来ませんので、あらかじめご了承下さい。rTMS療法をお受けになる皆様には事前に「rTMS療法の適性に関する質問票」(下記掲載)にご回答頂く必要があります。

 適応外使用の具体例を適正使用指針から引用しますが、専門用語や診断コードで分かりにくい箇所もあると思います。不明な点は担当医師に確認するようにして下さい。

rTMS療法適応外の具体例(下記の症例にはrTMS療法を施行するべきではない)

  1. 18歳未満の若年者
  2. 同一のうつ病エピソードにおいて、過去にrTMS療法を受けたことがある場合
  3. 明らかな認知症(F00, F01, F02, F03)[294, 290]や器質性あるいは症状性の気分障害(F06.3)[293.83]を呈する場合
  4. 以下に挙げる疾患などにおいて、うつ病エピソード(中等症以上)の診断基準を満たさない不安抑うつ症状を示す場合
    • 適応障害(F43.2)[309.2]を含む神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
    • 成人の人格および行動の障害(F60.x)[301.x]
    • 広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)(F84)[299.00]
    • 多動性障害(注意欠如・多動性障害)(F90)[314.0x]
  5. 復職支援デイケア(リワーク)などに参加可能な程度に回復(寛解)している中等症以上のうつ病エピソード(F32.5, F33.42)[296.26, 296.36]の場合
  6. 精神病症状をともなう重症エピソード(F32.3, F33.3,)[296.24, 296.34]、切迫した希死念慮や緊張病症状など電気けいれん療法が推奨される症状を示す場合
  7. 抗うつ薬の著しいアドヒアランス低下をともなう場合(抗うつ薬による顕著な副作用による低耐性はrTMS療法の適応となる)
  8. 精神作用物質あるいは医薬品使用による残遺性感情障害(F1x.72)[291.89, 292.84]を示す場合

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