依存症研究室

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研究室紹介

依存症研究室は、2014年12月1日、神奈川県立せりがや病院と芹香病院との統合を契機に、県立精神医療センターに新設された研究室です。旧せりがや病院は、全国でもめずらしいアルコール・薬物依存症を専門とする公立病院として51年の歴史があり、当初より外来・病棟ともにチーム医療にもとづく心理社会的治療が盛んでした。2006年には、外来で覚せい剤依存症の患者さんを対象としたグループ療法「せりがや覚せい剤再発防止プログラム(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program: SMARPP)」を立ち上げ、その後は覚せい剤以外の薬物依存症の患者さんにも対象を広げて、着実に治療実績を重ねています。
依存症研究室は、旧せりがや病院が半世紀にわたって築き上げてきた臨床経験と研究成果をもとに、依存症の心理社会的な病態解明と、より良い治療法の開発をめざします。当研究室の主な研究テーマは以下のとおりです。

疫学調査

同じセンター内の依存症専門外来・依存症病棟と緊密に連携し、患者さんにご協力いただいたアンケート・面接調査や実際の診療記録などのデータ収集や分析を行います。当センターで治療を受けられた依存症患者さんの社会的背景や精神医学的病態、治療予後を浮き彫りにし、依存症という病気の実態把握を目指します。

心理学的基礎研究

依存症者のパーソナリティは単一ではありません。それぞれの患者さんの思考・認知・感情表現・対人関係などの特徴をいくつかのタイプに分けて把握することによって、スタッフがオーダーメイドに近い治療プログラムを用意することも可能になり、さらに、患者さん自身が飲酒・薬物使用に至るパターンを理解しストレス対処の幅を広げることにも役立てられます。臨床における心理アセスメントの蓄積を基に、多くの依存症患者さんが人や社会との関係で抱える様々な「生きづらさ」を浮き彫りにし捉えるタイプ分けを試み、それぞれのタイプの特徴や効果的な治療的介入との関係を分析することで、依存症治療の現場に還元できる研究を目指しています。

治療研究

より効果的な治療プログラムを開発し、当センターの依存症専門外来・依存症病棟の全面的な協力のもと、導入・試行します。プログラムを実施する際には必ずアンケート調査など効果測定も並行して行い、絶えず改良を加え、調査結果を次世代のプログラム開発に活用することを目指します。なぜなら依存症は時代と共に乱用される物質が移り変わり、また乱用する患者さんの年齢層や社会背景も変化していくからです。
2014年度からは、急増する危険ドラッグ依存症に対応するため、病棟ルールの簡素化、治療目標の多様化、入院プログラムの選択制導入など、包括的な治療プログラム改革(Serigaya Collaboration for Open heart Project: SCOP)を行っています。特にこの改革の中心となるものが新たに導入された入院治療プログラムSCOPⅠ・Ⅱ・Ⅲです。
これは臨床心理士、作業療法士、看護師の3職種共同による統合的グループ療法で、感情・身体・コミュニケーションの3領域における患者さんの「気づき」を促すことで、断酒断薬への動機付けを高めることを目指すものです。依存症研究室では、その効果測定や治療予後の調査を行っていました。
H27年12月からはさらに依存症専門病棟以外でも実施可能な形に修正を加え、汎用性を高めるための試みとしてSCOPを外来の場に移して実施しています。内容としては、精神保健福祉士(または臨床心理士)によるSCOP1と外来看護師によるSCOP3の2つのセッションを隔週で交互に行っています。

地域連携

【司法機関との連携】違法薬物の使用で実刑判決を受けた受刑者が、満期になる前に出所し、保護観察を受けながら社会内で過ごしてもらうことで、円滑な社会復帰と再犯防止を目指す「刑の一部執行猶予制度」の施行を目前にして、旧せりがや病院では横浜保護観察所、横浜刑務所と連携してきました。定期的に保護観察所での薬物再犯防止プログラムに助言者として参加したり、横浜刑務所に出向いて受刑者の面接調査を行い、出所後の処遇について医療の側面から保護観察官に助言を行うといった活動を、研究室として引き続き継続していきます。そしてその成果については、適宜学会等で報告していきます。
【教育機関との連携】学校からの要請を受け、従来から旧せりがや病院のスタッフが担ってきた薬物乱用防止教室の活動を研究室としても支援し、より効果的な防止教育のあり方に関する調査研究を目指します。
【行政機関・回復施設等との連携】旧せりがや病院の職員が従来から引き受けてきた各自治体や回復施設等主催のセミナーや研修会、講演会を、研究室として引き継ぎ、アルコール・薬物依存症に関する正確かつ最新の医療情報の発信・普及に努めます。

業績一覧
2023.6.23

 第119回 日本精神神経学会学術総会において、当院依存症研究室の西村医師、板橋臨床心理士がそれぞれ研究成果を発表しました。

2023.6.22

 第119回 日本精神神経学会学術総会において、当院依存症研究室の小林医師がシンポジウム「日常診療で、大人の発達障害を理解し支援する」に登壇しました。

2023.1.28

 月間精神科第42巻第1号にて当院依存症研究室の小林医師による論文「難治療抵抗性(難治性)精神疾患の理解と治療戦略による 薬物依存症」が掲載されました。

2022.11.11

 第22回日本認知療法・認知行動療法学会にて当院依存症研究室の小林医師・板橋臨床心理士が大会企画シンポジウム「Addictionの認知行動療法~共同作業を当して事故客観視しやすくなる介入」に登壇しました。

2022.11.6

 BPCNPNPPP4学会合同年会における日本臨床精神神経薬理学会第22回臨床精神神経薬理学セミナーにて当院依存症研究室の小林医師がシンポジストとして登壇し「物質関連障害の回復支援と薬物療法の役割」というテーマで講演しました。

2022.9.9

 2,022年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会にて当院依存症研究室の小林医師、西村医師がシンポジウム「アディクション臨床における後進育成、次世代への継承」に登壇しました。また、西村医師、板橋臨床心理士がそれぞれ研究成果を発表しました。

2022.9.8

 2,022年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会にて当院依存症研究室の青山医師がシンポジウム「大学病院やその近辺で依存症に関わっていくこと」に登壇しました。

2022.8.25

 精神科臨床Legato Vol.8 No.2に当院依存症研究室の小林医師らによる論文「依存症患者における小児期逆境体験ー1,700人分の初診時調査の報告ー」が掲載されました。

2022.8.25

 精神神経学雑誌第124巻第8号に当院依存症研究室の板橋臨床心理士らによる論文「物質使用障害患者における初診3年後の断酒断薬予後ーアルコール,違法薬物,処方薬市販薬の乱用物質別による断酒断薬継続期間への影響因の検討ー」が掲載されました。

2022.7.31  日本性科学会雑誌40巻1号に当院依存症研究室の西村医師らによる論文「依存症専門外来でセクシャルマイノリティであることを自らカミングアウトした物質使用障害患者の予備的研究」が掲載されました。
2022.6.18  第118回日本精神神経学会学術総会において、当院依存症研究室の板橋臨床心理士がその研究発表「依存症患者の乱用物質、嗜癖対象、病歴による類型を基にした初診3年後の通院継続状況の比較」により優秀発表賞および精神神経学雑誌投稿奨励賞を受賞しました。
2022.6.16  第118回日本精神神経学会学術総会において、当院依存症研究室の小林・西村医師、板橋臨床心理士がそれぞれ研究成果を発表しました。
2022.2.9-2.10  神奈川県の依存症治療拠点機関として、県内の医療機関・相談機関の職員の方々を対象とした依存症セミナーをオンライン上で開催しました。
2021.12.19  2021年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会において、当院依存症研究室の小林医師、板橋臨床心理士がそれぞれ研究成果を発表しました。
2021.11.28  臨床精神医学第50巻第11号に当院依存症研究室の小林医師による論文「精神疾患患者の人生全体を視野に入れた治療と支援 薬物依存の長期的展望」が掲載されました。
2021.10.24  第40回日本性科会学術総会において、当院依存症研究室の西村医師が研究成果を発表しました。
2021.9.21  第117回日本精神神経学会学術総会において、当院依存症研究室の板橋臨床心理士がその研究発表「依存症患者の乱用物質、嗜癖対象、病歴による類型化の試みー潜在クラス分析を用いた検討ー」により優秀発表賞を受賞しました。
2021.9.19-9.21  第117回日本精神神経学会学術総会において、当院依存症研究室の小林・西村医師、板橋臨床心理士がそれぞれ研究成果を発表しました。

スタッフ紹介

小林 桜児 精神科医
黒澤 文貴 精神科医
西村 康平 精神科医
小島 亮子 看護師
小林 千香子 精神保健福祉士
板橋 登子 臨床心理士

関連リンク

当研究室が参加した多施設共同研究成果(第113回日本精神神経学会学術総会)
長徹二ほか:カードゲーム型依存症治療ツールARASHI(アラーシー)の集団療法への応用.第113回日本精神神経学会学術総会プログラム・抄録集,S456,2017
濵本妙子ほか:カードゲーム型依存症治療ツールARASHI(アラーシー).第113回日本精神神経学会学術総会プログラム・抄録集,S491,2017
カードゲーム型依存症治療ツール「ARASHI(アラーシー)」(Addiction Relapse prevention by Amusement-like Skill-up tool for Help-seeking Innovation)は、下記のホームページからカードと取扱説明書を無料でダウンロードできます。

なお、本ツールをグループ療法(集団治療)として使用する場合のグループ療法マニュアルもあるので、所属機関名、責任者のお名前、住所、電話番号、メールアドレスを記載して、arashi.group.therapy@gmail.comまで、「グループ療法マニュアル希望」とタイトルに入れて、メールにてお問い合わせください。

平成27年度厚労科研「アルコール依存症の実態に関する研究」(分担研究者 長 徹二)成果物