医療スタッフインタビュー

多職種のエキスパートが連携、協力し合い、 社会復帰のためのきめ細やかなケアを提供

コメディカルメンバー

コメディカルメンバー

患者さんの多くは病気による苦痛だけでなく、様々な不安や問題を抱えている。神奈川精神医療センターでは、コメディカル部門のエキスパートが連携し、情報共有を図りながら、きめ細やかで専門性の高いケアを行なっている。精神医療における多職種連携がどのように行われているか、チーム医療の有効性や今後の展望などについて聞いた。

それぞれのお仕事の内容は?

福祉医療相談科 石川慶子さん
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福祉医療相談科は外来受診、入院相談をはじめ、は入院から退院まで患者さんが病気や障害によって生じる様々な生活上の心配や不安などの相談にのり、社会福祉の立場から利用できる制度やサービスを紹介しています。患者さんの希望を聞いて寄り添うことを一番大切にしています。コメディカルの皆さんとは日々情報を共有し、患者さんにとってよりよいサポート体制の構築を目指し、協力し会っています。退院にあたっては地域の関係機関と連絡や調整も行い、上手く当院が地域と連携を図れるように重要な役割も担っています。地域で患者さんが生活していく上でどんな情報やサポート体制が必要なのかを見極め、患者さんの将来の希望も視野に入れて、社会復帰にむけた支援をしています。

デイケア科 福永薫子さん
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デイケア科は外来に通院中の患者さんのリハビリテーションを担当しています。趣味的に楽しめるものから、再発予防といった観点で、患者さんご自身の病気を理解するために勉強していただく機会を設けています。

作業療法科 城下絵里香さん
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作業療法科では、退院に向けて入院患者さんの体力が落ちないように運動をしたり、精神的に弱っている部分を強くしたりと、広義的なリハビリテーションを行います。実際にはゲームをしたり、音楽を聞いたり、歌を歌ったり、皮細工や陶芸をしたりして、患者さんが楽しむことで生きる喜びにつなげられるような体験型の治療を行っています。それらの活動を通して、さまざまな気づきへと広がっています。

心理科 赤坂三恵さん
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心理科では主に大きく分けると心理検査、心理面接、集団療法を行なっています。心理検査は全員ではありませんが、主治医が必要性を判断した上で入院と外来の両方で行います。集団療法は、作業療法やデイケアのプログラム、病棟で看護師さんが行うプログラムを多職種で連携して行っています。

薬剤科 菊地正孝さん
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薬剤科では、薬の調剤、患者さんへの服薬指導、入院あるいは外来患者さんへの教育プログラムにおいてお薬のお話をするといった主に3つの仕事を担っています。外来処方箋は95%が院外処方箋となっており、それゆえ調剤業務のほとんどが入院患者さんへの調剤となっています。服薬指導は医師からの依頼に基づき行い、入院患者さんに対して頓服薬の使い方を説明したり、ときには使うタイミングを患者さんと一緒に考えたり、朝・昼・夕・寝る前に定期的に服用するお薬がきちんと飲めているかどうかを確認したり、薬が飲みたくない場合には、その理由を患者さんからお聞きし、飲めるようになるためにはどうしたらよいかを考えたりもします。

栄養管理科 馬場真佐美さん
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栄養管理科は直接的な栄養相談や入院中の栄養補給計画等の栄養管理が主な仕事です。精神疾患の患者さんは食べ過ぎや偏食で糖尿病や脂質異常症等、生活習慣病になってしまったり、栄養失調になってしまったりすることがあります。入院患者さんの多くは精神疾患以外の合併症を持っていることが多く、病状悪化や疾病予防のための栄養指導を行っています。

コメディカル部門のチーム医療の強みは?

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石川さん:当院は救急、依存症や思春期など、様々な専門病棟があり、県立の基幹病院としての役割を担っています。コメディカルスタッフも多様な精神医療に対応できるように日々の診療の中でしっかりと専門知識を学び、スキルアップしています。お互いの専門性を尊重し、患者さんのニーズに対応した全人的なケアを包括的に展開できることかと思います。

馬場さん:一言で精神疾患と言っても、依存症や統合失調症等、様々な病気があり患者さんは多様です。この病気の患者さんにはこの方法という決まったプログラムがあるわけではなく、患者さんごとに個別に評価しています。当院のコメディカルチームは精神科のプロフェショナルという誇りを持ちながら、患者さんの望む人生に向けて患者さん一人一人に真剣に向き合っています。コメディカル部門が単なる専門職集団ではなく、チームでしっかりと連携することにより、効率的で質の高い医療サービスを実現しています。

福永さん:それぞれの職種が違った場面で患者さんとの接点を持っていますから、専門性を踏まえた視点や気づきを共有できるのはチーム医療の強みですね。入院していなくてもデイケアに通っている患者さんが一定の時間を院内で過ごすなかで、他部署の医療スタッフと顔見知りとなり、外来のフロアで話している姿を見かけます。セクションの垣根を越えて多職種で関わることが患者さんにとっても安心感につながるのではないでしょうか。

チーム医療の具体的な取り組みは?

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馬場さん:管理栄養士が考えるチーム医療は、入院後、ソーシャルワーカーさんから情報をいただき、「食べること」をどのように展開していくかを管理栄養士だけの視点ではなく、いろんな職種からの視点を共有し、どのように栄養管理をしていくかを決めています。具体的には、定期的にカンファレンスを行い、医師や看護師と一緒に医療の方向性を見定めつつ、コメディカルとしてできることを考えます。例えば、食べることができない患者さんには多職種のそれぞれの立場からで声をかけるなど、協力し合いながら治療経過を見守ります。

赤坂さん:言葉でのやりとりはできても作業能力が低いというように、本人も医師も普段のやりとりの中では把握できていないことでも、心理検査では能力の評価ができます。検査するタイミングは退院を検討しはじめる時期が多く、患者さんから「退院後は一人暮らしがしたい」と希望が挙がるもあります。本当に一人暮らしが可能なのか、どんな支援があれば希望が叶えられるのかを検査結果を踏まえて、他の職種の方にも相談し、退院後の方向性を決めていきます。

福永さん:患者さんによっては、退院後にデイケアに通ったり、デイケアに通っていたりした方が入院することもあります。入院前の患者さんの様子やどんなプログラムに参加していたかという情報をできるだけみなさんと共有するようにしています。退院後にデイケアに通所する時も、入院中に行った心理検査の結果や作業療法のプログラム等、他職種の方からアドバイスを受けながら引き継ぎを行います。

城下さん:作業療法では運動したり、ものを作ったりするので、説明が理解できるか、手先がどのぐらい器用かはわかりますが、例えば、外出時はどういう状態なのか、バスの乗り方やバス代の払い方、カードが使えるのかについてはわかりません。その場面場面で他の職種ではどう見えているかを知ることで患者さんとの関わり方が変わったり説明の仕方を変えたりできます。一人ひとり特性に合わせて言葉だけでは勘違いや誤解が生まれることもあるので、図式化して説明することもあります。

石川さん:コメディカルの皆さんの患者さんへの様々な関わりやアプローチの工夫を退院後の地域生活にうまく繋げられるように、必要な社会資源の提供をしながら、地域の関係機関と連携を図っています。

他職種との情報共有や患者さんとのアプローチの工夫は?

石川さん:私たちはコメディカルの専門性を重視して、多職種の視点を大事にしながら、情報収集をしています。患者さんから退院にむけて「薬が飲めなくなったらどうしよう」「一人暮らししたいけど本当に自分にできるかどうか」など、相談を受けることがあります。薬剤師から薬の情報を得たり、作業療法科から退院後にどんなにリハビリが必要なのかを聞いて、デイケアや通所サービスを紹介したり、心理士より心理検査の結果を説明してもらったりします。退院後に関わる地域の方からも協力を得るため、伝え方にも工夫をしています。

馬場さん:カンファレンスは定期的に開催しますが、日頃から忙しくしている医療者が頻繁に顔を合わせるというのも難しいので、関係者の間で患者さんの情報を常に共有できるよう電子カルテに記録を残しています。管理栄養士の視点では、ある患者さんの低栄養状態が問題として上がると、どのように栄養補給をしていくかという栄養管理上の目標を設定し共有します。栄養士だけではなく、他職種の方から違ったアプローチをされることで、食べる意欲が湧いてくることがあるのです。

赤坂さん:心理面接をすると「食べない」ということが「生きること」自体を拒否している場合や愛情欲求が満たされていない場合があります。食べないことがその人にとってどんな意味やメリットがあるのか考えてもらうために面接をしたりします。食べないという行動の背景にあるものを理解しながらアプローチすることで、少しずつ食べられるようになったりすることがありますね。

城下さん:食べないことについていえば、寝ている時間が長くて起きないので食べなくてすんでいたという患者さんもいました。そういう時は食欲を出すためにはどんなことに興味があるか聞いてみて、例えばアクセサリーを作るのが好きな人は簡単にできるアクセサリーを一緒に作ってみると、表情に変化が現れ、楽しみが食欲に変わっていく場合もあります。

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赤坂さん:確かに、「食べる」「食べない」、「生きる」「生きない」みたいな思考に捉われていると、患者さんの思考が停滞して進まないことがありますね。作業療法がいいと思うのは、そういうことから頭を切り離せることです。一つの思考にとらわれず目の前にある作業に集中して取り組んでいると、考える隙ができます。考える隙ができると思考の転換のきっかけになることも多いです。私たち心理士には、作業という手段のレパートリーがないので、作業療法士の方との連携で気づかされることが多いですね。

馬場さん:管理栄養士も同じで、食べない人に栄養指導の話ばかりすると行き詰まってしまいます。そういう時には、「そういえば、作業療法のプログラムでは、どのような物を作ったのですか?」というように食べること以外の話をします。私たちが自分の専門以外のことに興味を示すと、患者さんが心を開くことがあるのです。他職種間で共有した情報によって、患者さんとの関わりが深められるという意味でもチーム医療は有効だと思います。

心がけていることや今後大切にしたいことを教えてください。

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城下さん:カンファレンスやコメディカル部会議の時に限らず、できるだけ他の職種の方と声をかけ合いコミュニケーションをとることが大切だと実感しています。院内で会った時に「この前カンファレンスで言っていた○○さんどうなった? 」というように、立ち話でもこまめに情報交換しながら、気軽にお願いできる雰囲気が作れるといいと思っています。あとは、退院前に地域で関わっている方々をお呼びして情報交換を図ることも以前に比べて行われるようになったのですが、退院後の受け入れ先クリニックとのカンファレンスが少ないので、広げていくといいと思っています。

福永さん:これからは精神科医療もどんどん地域に移行していくことになると思うのですが、患者さんが地域で安定した生活を送るためには、院内だけではなく、受けいれる地域の方々との連携も求められます。こまめに情報交換をしながら見守っていきたいです。

赤坂さん:患者さんの希望をいろんな視点から見るこというのは大切です。多職種の様々な視点から見たその人の評価に基づいて、その患者さんがやりたいことをどういうふうに実現していくかを重視にしたいと考えています。心理士が地域に出ていくは難しいのですが、地域連携は必要だと思いますので、できる方法がないか考えているところです。心理科としては多くの患者さんに心理療法を提供するために、集団プログラムを外来でできる体制を検討しています。

馬場さん:専門家だからと言って枠にはめて判断しないで患者さんがどういうふうになっていきたいか、どういう食生活が必要なのか、一人一人のプランを考えられるように努めています。精神科の治療は日々進歩していますので、今後は院内で治療するだけでなく、退院後の患者さんの社会復帰のための支援が必要だと思います。患者さんたちが精神疾患を抱えながらも地域で活き活きできるようなチーム医療をこのメンバーなら実現できると思います。

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菊地さん:精神科では患者さんごとに持っている病状や持っている課題が一人ひとり違いますので、お薬のお話は患者さんに合った内容で理解できるペースで、ゆっくり進めさせて頂いています。ここ3年間新型コロナウイルス感染症の蔓延で大人数の教育プログラムができていなかったので、状況を見極めながら再開できればと思っています。薬剤師は病棟にさほど多く行けてないですが、できるだけカンファレンス等に参加して、お薬の情報を提供するとともに多職種と情報共有できればと思っています。

石川さん:私たちが一番大事にしていることは患者さん個人の尊厳です。患者さんも一人ひとり個性があり、希望する人生は多様です。社会情勢に合わせた丁寧な相談援助業務を行っていくためには、コメディカルの専門性を生かしたチーム医療は不可欠です。地域の関係機関の方々からの当院コメディカルへの期待は高まっていて、講演依頼や会議にも参加して欲ほしいという声をいただいています。患者さんの社会復帰を目指し、コメディカルスタッフの一員として専門的な知識や経験を生かしたチーム医療を地域に還元できるよう努めてまいりたいと思います。