医療スタッフインタビュー

他職種との連携と綿密な情報共有で患者さんの回復を総合的にバックアップ

佐藤泰幸 看護師

看護教育科

自身の入院経験が看護師を志すきっかけに

私は北海道出身で、埼玉県の看護専門学校を卒業したあと、神奈川県内の別の病院で看護師としてのキャリアをスタートしました。看護師になって6年目に当センターに移り、約20年ここで働いています。

看護師を目指したのは、小学校時代に入院したときの看護助手さんとの出会いがきっかけです。楽しみにしていた夏休みに入院することになってしまい、最初はとても残念な気持ちだったのですが、病棟の看護助手の男性がいつも気にかけてくれたおかげで入院中も楽しく過ごせました。

その後、高校生になって進路選択で迷っていたときに、当時の先生から「看護師の仕事が合うんじゃないか」と背中を押してもらい看護専門学校に進学しようと決めました。専門学校の勉強はなかなか大変でしたが、実習などを通して多くを学ぶ中で、看護師はとても責任重大な仕事なんだと実感していきました。

神奈川県立精神医療センターならではの治療体制

当センターには外来と専門病棟般精神病棟のあわせて10セクションがあり、患者さんの状態にあわせて治療を進めるための幅広い環境を備えています。患者さんに安心・安全に過ごしていただくための取り組みをしています。

また、様々な職種の専門家が連携して治療にあたるのも大きな特徴です。例えば思春期病棟であれば、院内では医師・看護師に加えて臨床心理士・精神保健福祉士・作業療法士などが総合的に関わります。そして、院外では必要に応じて学校の先生や児童福祉の職員などとやりとりを行う場合もあります。看護師がすべての職種との連携基点になって、他職種の役割や大切にしていることを尊重しながら、患者さんをどう支えていくべきなのかを一緒に考えます。

さらに、当センターでは訪問看護も実施しています。病棟・訪問看護・外来は常に情報共有を行い、それぞれの患者さんがどんな治療をしてきたかを全て把握したうえでケアができるのは当センターの強みだと思います。

看護師だからこそできる、日常生活に近い環境でのケア

当センターでは様々な職種が連携しながら一人の患者さんのケアにあたりますが、やはり日常生活の場面で患者さんを支えていけるのは私たち看護師です。患者さんの生活能力や対人関係能力、様々な場面での緊張度といった部分を看護師がしっかり見て、医師や心理士などとは違う生活者という視点で患者さんを理解することが重要です。

インタビュー中の写真

患者さんのケアには受け持ち制とチーム看護を併用していて、看護師は毎日患者さんの現状と治療の進行状況を確認するミーティングを行います。もちろん、治療においては機会があるごとにご本人とご家族がどうしたいのかという意思確認を実施します。途中で意向が変わることもあるため、変化も含めてより良い状態へ向けてどうすべきかを検討します。それにより、退院後に地域や家庭に戻ってからの生活につなげやすくなります。

人と人との出会い・関わりを通して徐々に回復を目指す

私は当センターに入ってから、3~4か所ほどの病棟での勤務経験があります。私が患者さんと接する際に大切にしていることは、患者さんのペースに合わせてゆっくりと信頼関係を作っていくことです。というのも、当センターに入院される方の多くが対人関係で傷ついた経験をお持ちの場合が多いからです。普段から患者さんとの距離感や声をかけるトーン・ボリューム・回数、自分の発する雰囲気などは特に気を遣っていて、徐々に慣れながら治療を進めていけるようにしています。

思春期病棟にいた時にとても印象に残っているのは、「これからも生きていこうと思う」と言ってくれた患者さんの姿です。私は常々、患者さんには人と人との出会いを通して、人に癒される経験をしてほしいと思っています。様々な悩みがある中で当センターの看護師に出会い、関係を構築しながら「生きてみようかな」と思えるようになったときは、とても嬉しく思いました。

もちろん、話ができるようになるとか、表情が少し明るくなるといった日常的な変化も、私たち看護師にとっては嬉しいことです。そのために自分たちがやってきたことを振り返りながら看護の意味を見いだし、日々の小さな変化も見逃さないことを心がけています。

看護師の教育を通して見えてきたもの

私は現在、看護教育科で看護師の教育全般を担当しています。看護職員の教育的サポートをはじめ院内外の研修の企画・運営や、人材確保を目的としたインターンシップの実施、病院見学の対応が主な仕事です。看護教育科には昨年配属されたばかりで、今は2年目です。患者さんと直接やりとりすることはほとんどありませんが、病棟や外来でのケアが患者さんにとってより良いものになるよう、後方支援をしています。

毎年春に数名の新人看護師が入ってきますので、精神科の基礎を学ぶための研修をおこなったり、看護師のキャリアを段階別に示した「ラダー」と呼ばれる指標に基づいたレベル別の院内研修を実施したりします。

現場から離れて看護師の教育に携わることを通して、色々な部署の看護師を俯瞰して見ることができ、新たな視野で看護の仕事をとらえるようになりました。それぞれの部署の強みや補完が必要な部分を広く見て、看護師の力をどうやって引き出すかを考え実行することにやりがいを感じています。

看護師の専門性を高める教育体制を充実させたい

今後、看護教育科で私が実現したいのは、看護師の教育を通して各部署の専門性を高めることです。院内の教育体制を徐々に整えていき、精神科の看護師だからこそできるケアで一人ひとりの患者さんに丁寧に関わる現場づくりを進めたいと思います。

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やはり世の中には、まだまだ精神科に対して来院しづらいイメージが先行しています。その敷居をもう少し低くできるように、多くの方がご自身のメンタルヘルスに関心を持ち、何か不安があればすぐに相談できる環境を作りたいですね。そんな精神医療が身近にあることを地域の皆さんにはぜひ知っていただきたいと思います。

患者さんへのメッセージ

患者さんにとっては、もしかすると精神科に通院すること・診察を受けること自体がすごく緊張する場合もあるかもしれません。しかし、当センターのスタッフはみんな温かいですし、常に専門性と精神科のプロとしての自負を持って働いています。

退院後に通院される患者さんに対しても病棟の看護師はいつも気にかけていて、外来へ会いに行くこともあります。また反対に、退院した患者さん自身が病棟へ立ち寄ってくれて、近況を話す伝えてくださる場合もあります。そういった患者さんとの信頼関係が形成された良い環境があり、患者さんを介して医療が地域につながっているのが当センターの特徴です。

ですのでどうか緊張せずに、まずは気軽に相談に立ち寄ってして欲しいと思います。早期発見が重要なのは精神科も同じなので、ぜひ安心して活用していただけたら嬉しいです。