医療スタッフインタビュー

患者さんの日常生活へ徹底的に寄り添い、他職種・地域と連携したチームで子どもたちのケアにあたる

菊地祐子 医師

連携サポートセンター長

神奈川県立精神医療センター 思春期病棟の特徴

私は児童思春期精神科医を長年務めていますが、当センターでは主に中学生・高校生が入院する思春期病棟を担当しています。思春期病棟の強みは、中高生にまつわることであれば発達障害・トラウマ関連障害・その他の精神疾患など、なんでも診るという部分です。また、子どもだけが入院する専用病棟で治療を行うので、思春期特有の同世代との人間関係の部分まで病棟で把握できるのは大きな特徴です。

中学生に対しては院内学級が整備されており、入院中の教育の保証もあります。学校でつまずいた子どもの問題点を、学校の先生や心理士・ソーシャルワーカーなどと共有して知恵を出し合い、解決に導けるのが当センターの良いところだと思います。

もう一つは、大人の精神科へのつなぎがスムーズという点です。18歳以降になったらどこで治療をするかというのは、多くの方が悩む問題です。もちろん児童・思春期精神科では、基本的に子どものうちに問題を解決し、精神科医療から巣立つことを目標としています。しかし、中には長期で治療が必要な疾患を持つ子もいますので、その点に関しては成人診療科を持つ当センター内でスムーズに連携できるのは強みだと考えます。

コロナ禍によって増加した子どもの精神疾患

インタビュー中の写真

コロナ禍では精神科の患者さんが全体的に増えましたが、小児分野でもその傾向は同じです。やはり「当たり前に続くと思っていた安全な日常」が突然失われるのは、大人にも子どもにも大きなダメージです。学校への分散登校や黙食も、人との関係性や時間の分断を起こし不安を増幅する大きな要因になりました。

思春期はただでさえ、頑張ったことと成果が出ることとの間にある時間差に悩む時期です。例えば、赤ちゃんは立っただけで褒められますし、小学生はひらがなが書けたら褒められます。しかし中学生や高校生になると、勉強して結果が出るまでの期間が少しずつ長くなります。そうすると、努力の過程と結果までの間が少し空きます。その間に友達や先生との関わりで励まされたり慰められたりしながら頑張っていくものですが、それらがコロナ禍ですべてなくなり、努力する意味を見失う子が増えたと思います。

そうなると、即時報酬と言って「今すぐ成果を得たい」と考える子が増えます。その結果、摂食障害で目に見えて体重が減っていくことに執着するとか、ゲームでモンスターを倒せばレベルが上がることに集中してしまうゲーム依存が増えました。また、ウイルスが注目されすぎたせいで、清潔さを追い求めすぎる強迫性障害も増えたと感じます。そのくらいコロナ禍は子どもの成長や発達に大きな影響を与えました。

「子どもたちが育つ場」としての病棟生活

子どもたちの治療では、治療スタッフのチーム力がとても重要です。大人の患者さんであれば、ソーシャルワーカーや心理士が個別に説明を行っても「この人は心理士さんだからこう言っているんだな」と理解できます。しかし、子どもの場合は職種で見るのではなく、「自分を治療してくれる大人の一人」として認識します。そのため、子どもに関わるスタッフが全員で協力して「この子はこういう風に退院まで持っていこう」とか、「この子はこういうケアをしよう」などと共有する必要があります。

病棟には医師、看護師、心理、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養、作業療法士がいて、それぞれが連携して患者さん一人ひとりの治療を行います。また、子どもたちが集まる病棟ですので、行事もたくさんあります。水遊び、夏祭り、ハロウィン、クリスマス、節分など季節ごとのイベントには、医師・看護師だけでなく全ての職種が参加して、子どもと一緒に楽しみます。

例えば作業療法士が園芸でジャガイモを育て、それを栄養士がポテトサラダにしてみんなで一緒に食べようといった食育のプログラムもあります。子どもたちにとって入院は非日常ですが、短期間でも子どもが育つ場であることに変わりはないので、病気や疾患だけに注目するのではなく健康な部分を育み伸ばす意識はいつも持っていたいと思います。

退院後の生活を見通した医療の提供と地域連携

入院する子どもたちやご家族への対応で大事にしているのは、原因探しをしないことです。学校が悪い、親が悪い、友達が悪い、ゲームが悪い、スマホが悪いなど、原因を探し当てたとしても症状が良くなるわけではありません。その子に今何が起こっているかをしっかり把握するのが重要です。

例えば統合失調症なら、どんなことが体の中で起こっていて、どういう薬がいいのかを共有するなど、未来志向で治療のプランを立てることを心がけています。どんな疾患であれ、入院するときにはお子さんもご家族もとても傷つき疲れていますから、しっかり元気を回復することが第一です。

家族は子どもを支える応援団ですが、家族だけで支えるのが大変な場合は、その家族の応援団を増やすことも必要です。そこで、思春期病棟では退院した後の家庭や地域で暮らすことまで考えた医療の提供に力を入れています。具体的には、入院の早期から児童相談所や子ども家庭支援センター、教育機関と連携を取り、退院後に地域で暮らすためのサポートネットワークを作っていくイメージです。

子どもは一人で社会を生き抜いていけない存在です。さらに、病気さえ治せばいいということはなく、大人になるまでの育ちを支える視点が必要です。それを個別の患者さんによってどうアレンジするかも治療の一環ですし、地域との連携によって子どもだけでなく家族のケアもできるようにスタッフ一同尽力しています。

患者さんの暮らしやすい環境を整えることが第一

地域と連携して子どもたちのセーフティーネットワークを構築するうえでは、子どもが暮らしやすい環境を再構築するイメージで、ソーシャルワーカー・養護施設・児童相談所・学校などと連絡を取り合いながら進めます。このとき注意しなければならないのは、「病院で問題行動が起きなくなったから、地域や家庭でも同じようにできる」と思わないことです。

例えば、養護施設で暴れて入院してきた子は、まず病棟で看護師との関わりを通して「こういう風にやればうまくいく」という方法を見出していきます。ただ、病院はスタッフの人数が多いからその方法が実現できる場合も少なくありません。退院して養護施設に戻った後、施設の少ない人員の中でどうやって良い状態を維持するかをみんなで考えます。

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当然、その過程では子ども本人とのやりとりや、子どもの持つ疾患や障害の特性、子どもの認知能力の把握、子どもを取り巻く社会資源の確認が欠かせません。そういった多方面から検討して、家庭・施設・地域で活用できるパッケージとして提供するのが重要だと思います。

シームレスに患者さんの人生を支える体制をつくりたい

医療体験は最初の段階で嫌な思いをしたら、そのイメージがずっと付いて回るものです。それは精神科に限らず、歯医者で痛い思いをした人が「歯医者は苦手だ」と感じるのと同じです。二度と病院にかかりたくないと思ってしまったら、その人の未来の健康被害に及ぶ可能性もあります。

思春期病棟は、子どもたちにとって精神科医療のファーストタッチになり得るものですから、「私たちの提供する医療体験を子どもたちのさらなる傷にしない」ということは常に心がけています。この考え方は周囲の医療従事者にもぜひ伝えていきたいことです。

加えて、子どもはいつか大人になります。最近は成人の精神科の先生方にも、子ども時代の発達過程で傷ついた経験は大人になってからどう影響するのかということをよく話します。患者さんの子ども時代だけをとらえるのではなく、大人になったときのことを見越して、シームレスにその人の発達・育ち・人生を支えられるような継続した関わりをつなぐのが大事だと思います。

患者さんへのメッセージ

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メンタルヘルスの問題は一人で抱え込まずに、ぜひ色々な人に相談をしてほしいと思います。その相談先の一つとして、精神科があります。コロナ禍をきっかけに、精神的に具合が悪くなる子は増えました。ただ、子どもたちは治療が早ければ早いほど、元に戻る力を発揮できると思います。

もしも地域のクリニックにかかっているお子さんで、入院治療が必要になった場合は、当センターでは多職種が密に連携して総合的なバックアップをしています。入院医療に関して幅広く提供できることがありますので、お子さんの治療に不安がある場合などもぜひ一度ご相談いただければと思います。