医師コラム

コラム(2)人材育成

 人材育成とは、誰かを型にはめることではなく、一人ひとりの個性や強みを大切にしながら、その人らしい成長を支えていくことこそが、育成の本質だと考えています。

 ただし、医療現場における人材育成の実際は単純ではありません。何よりも最優先にするべきは、患者さんの安全であるため、反復訓練や基礎の徹底などのいわゆる従来型の教育が欠かせない部分もあり、これは医療の質と安全を守る重要な側面でもあります。

 これまでの医療現場では、知識や技術をしっかり身につけることが重視されてきました。一方、近年は、多様な価値観を尊重し、一人ひとりに合った関わりが求められています。

 若手スタッフは、反復訓練や基礎の繰り返しの確認といった従来の教育に違和感を持つことがままあります。効率や確実性を重視する傾向があるため、一見して非効率に思える訓練や目的が不明確な指示については「それって無駄じゃない!?」と賛同を得られないこともあり、結果として、現場では「教える側の常識」と「学ぶ側の価値観」のギャップが摩擦として表面化することもあります。

 知識や技術を伝えることはもちろん大切ですが、それ以上に「安心して学べる場をつくること」が、育成の土台になるのではないでしょうか。人はそれぞれ異なる歩みを持っています。得意なことも、苦手なことも、一人ひとり違います。その違いに目を向け、理解しようとする姿勢が、信頼関係を育てていきます。教える側は、指示を出す存在というよりも、迷ったときに寄り添い、背中を押す伴走者でありたいものです。

 精神科医療の現場では、人の感情を扱う場面が多く、さらに支援する側の負担も大きくなりがちです。頑張らせすぎず、「少し休もうか」と声をかけ合えること、チームで支える仕組みを整えることも、大切な人材育成の一部です。

 また、失敗できる環境を整えることも大切です。もちろん、医療現場では患者さんの安全を守ることが最優先であり、重大な事故を防ぐ視点は欠かせません。そのうえで、確認不足や経験不足による小さなつまずきを、学びにつなげられる環境を整えることが大切です。「ここでは挑戦しても大丈夫」と思える安心感があってこそ、人は自分の力を少しずつ発揮していきます。小さな一歩や努力に目を向けることで、成長は確かなものになっていきます。

 これらの視点を大切にしながら、一人ひとりが関わりを積み重ねていくことが、これからの現場を支える力になり、その姿勢が、日々の患者さんとのかかわりに反映されていくものと考えます。

副院長兼医療局長 中田 雅子